ダウン症の知力改善薬 治験開始

2014年07月31日 11:15

 中外製薬は、ダウン症治療薬の臨床試験を日本で開始した。ロシュが創製した低分子化合物「RG1662(開発コード)」で、ダウン症の知的能力を改善する薬剤として製品化を目指す。知的能力障害に有効とされる薬剤はまだない。開発が順調に進めば、RG1662が同適応症の治療薬としてファーストインクラスの新薬になる見通しだ。

 ダウン症では、抑制性神経伝達物質である「GABA(ガンマ・アミノ酪酸)」を介して抑制性の中枢神経伝達が優位になるため、効果的な学習・記憶が妨げられるとされる。GABA-A受容体が持つサブユニットのうち、認知や記憶に重要な役割を果たす海馬・前頭前皮質に多く存在するのが「α5サブユニット」で、RG1662は同サブユニットに結合する。サブユニットとGABAの結合を弱めてGABAが過剰に働かないようにすれば、抑制されていた認知・記憶能力を高められるとみている。

 5月に日本で第1相臨床試験(P1試験)を開始した。6~30歳のダウン症者を対象とし、読み書きや言語、金銭概念の理解、対人関係の構築、着衣など日常生活行動を含む適応行動・認知機能について評価する。ダウン症では症状の変化を定量的に測定できる指標のようなものが確立されていない。今回の試験では症状改善について医師・家族からみた評価などを用いる方針という。

 海外では後期P2試験を始めたところで、1日2回投与で26週後の症状を評価する予定。グローバル開発する他のロシュ品と同様に、現在の臨床試験結果をみてP3試験からは日本も参加できるよう調整したい考えだ。

 ダウン症は最も頻度の高い染色体異常症で、新生児の650~1000人に1人の割合で発生するとされる。先天性心疾患などの合併症のほか、身体的な発達遅延や知的能力障害をともなう。合併症のケア向上により平均寿命は伸びているが、ダウン症にともなう知的能力障害に対する薬物療法は存在せず、自立した生活の障壁になっているという。

 ダウン症治療薬では、エーザイもアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」を用いた開発を行っている。以前より動作がゆっくりになった、会話が減った、閉じこもるようになった、睡眠障害があるなど、ダウン症候群の退行様症状を対象にした開発で、約1年前にP2試験を始めた。日本の大学が独自に開発した心身機能チェックリストを用いて症状の改善度を評価する。