手のかからない子
ある(架空の)ACのモノローグ
私は子どもの頃、
手のかからない子だった。
いや、
手のかからない子でいなければいけなかった。
親を失望させたくなかったし、
親から見捨てられたくもなかった。
それだけでなく、
私の家族はいろいろな問題を抱えていたから、
私が手のかからない子でいないと、
家族が壊れてしまいそうだった。
だけど、
本当は、
私のことを見てほしかった。
本当は、
私の話を聞いてほしかった。
私が手のかからない子どもでいることを、
ほめてほしかった。
一度だけ親に「辛い」と言ったことがある。
だけど、
「あなたらしくない」と言われてしまい、
それからは、
「辛い」と言う言葉を封印した。
私はおとなになって、
手のかからない人になった。
相手を失望させないように。
相手から見捨てらないように。
相手との関係が壊れてしまわないように。
でも、本当は辛いんだ。
これからは、少しずつ、
自分の気持ちを伝えていく。
辛いときは、
「辛い」と助けを求めていく。
手がかかる私でも、
大事にしてくれる人のところに身を置いていく。
子どもの頃には難しかったけど、
大人の私にはそれができるはずだから。
窪田佳美